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2011年10月の1件の記事

2011年10月 9日 (日)

籔内佐斗司さんのこと

手元にある一冊の図録。
タイトルは、『籔内佐斗司の博物学的世界展』。

ページをめくってみる。

開催会期及び会場
 1993年4月29日(木)~5月11日(火)
 日本橋高島屋8階ホール

 
なるほど、あれから、もう15年以上もたったのか。

大昔の話だけれど、日展に足を運んだとき、
とりわけ彫刻ってつまらないなって思った。

もちろん、鎌倉時代までの仏教彫刻の素晴らしさは、
素人の自分にもビンビン響いてくる。

だけど、現代彫刻には全く魅力を感じなかった。
門外漢の自分には、訳の判らないものでしかなかった。

「籔内佐斗司の博物学的世界展」を見に行ったのは、
そんな頃だった。きっかけは、広告のポスター。
ポスターにでかでかと書かれた、

「大人になったから、芸術家になりました」

そんなコピーに惹かれ、なにやら面白そうと思い、出掛けてみた。
(記憶があやふやで一言一句合っている自信はないが…)

その頃、自分の健康には大きな問題があって、
毎日が綱渡りのような生活だった。
ボロ雑巾のような肉体に鞭打たれて、心は非常に疲れていた。
だからヒィヒィ言いながら、足を運んだ。

そしてまた、心の一隅には、素人の自分、センスの無い自分には、
現代彫刻の良さなど判らないのかもしれない、という想いもあった。

しかし、そいういった心身の苦痛と、一種の諦めや身構えは、
会場に足を踏み入れた途端、一瞬にして消え去っていった。

籔内さんの彫刻たちは、両手を大きく広げて客を迎え入れていた。
人懐っこく見る者を受け容れては、見る者の胸に飛び込んでくる。
昔馴染みに出逢ったように、あっという間に寛いだ気持ちになった。

モチーフは親しみやすいものばかり。そして、遊び心がいっぱい。

阿吽や四天王、釈迦十大弟子など仏教に関するもの、
歴史上の人物、桃太郎や一寸法師など昔話の登場人物たち、
そして、変幻自在、千変万化の童子たち。ほかにも、
いぬ、ねこ、たまねぎ、かぶ、かえる、さかな、えび、たい・・・。

古から延々と繰り返されてきたであろうようなテーマ、
或いは、何の変哲もない日常の風物でさえ、
作家の手によって、新しい生命を得て活き活きとしていた。

その楽しげなモノたちは、
受け手の心を自由に楽しく開放してくれた。
俗塵の垢を、肉体の重さを、一瞬忘れて。

会場全体が、あったかく、なごやかで、
それでいてどこか清浄な空気に包まれていた。
会場に流れていた井上鑑さんの音楽の力も大きかっただろう。
かなりの盛況で混み合っていたけれど、
ギスギスした感じなど微塵もなく
老若男女がニコニコとそれぞれの歩調で楽しんでいた。

体は辛かったけれど、心の底から来て良かったな、と思った。
肉体の棘にくじけそうになる心を助けてくれる喜びがそこにあった。

そうだ、何ら前提となる知識などを必要とせずに、
素人が無条件に楽しめる芸術こそ、本物なんだ。
そして、そういうものは、心を一瞬間でも本当に救ってくれる。
そんなことを思った。

いつだったか、ふと思い出して、籔内さんをインターネットで
検索してみた。ちゃんとホームページがあって、ネットを通じて
作品の購入も可能になっていた。

非常に高価で、当分の間手が出そうには無いけれど、
買おうと思えば買えることがわかって嬉しかった。

今でも美術にはまるきり素人で、専門的なことなど何一つ判らない。
それでも、あの日、彫刻の楽しさ、素晴らしさを教えてくれた、
あの童子たちの仲間をいつか手元に迎えたいと思っている。

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